歯を抜かない治療 Case2 :器具破折のリカバリーから抜歯を免れた治療

左上第1大臼歯(レントゲン写真上、真ん中の歯)の根管の1つに治療器具の破折が認められます。
痛みがあって再治療が必要な状態ですが、歯医者で「再治療が出来ない」ということで私が治療を担当しました。


治療器具の破折がある場合の治療方針としては

  • 1. 破折片を中から取り除く
  • 2. 歯根先端部分を外科的に取り除く
  • 3. 抗生剤3mixを使って根管を無菌化する
  • 4. 抜歯をしてブリッジや義歯、インプラントにする

といった4つの中から大体の場合は検討します。


歯を残す上で最も効果、安全性が高いのは1番の破折片を中から取り除く方法になります。
今回の症例でのポイントは

  • 深めのスクリューポストを除去する際に歯をなるべく傷つけない
  • 破折した器具を除去するためにバイパスを形成出来るか

以上の2点になります。

難しい治療ステップをクリアして、破折した治療器具を除去出来た状態のレントゲン写真です。レントゲン不透過性のものは何も写り込んでいません。


全ての症例でこのように器具が取り除けるわけではありませんが、まずはこの方法をチャレンジすることが良いと考えています。
その理由としては、歯を最大限保存出来ること。除去に失敗しても次の一手の選択肢が多いことがあげられます。
しかしながら、最も大切なことは歯の神経を除去する最初の治療をしっかりと行い、この様に器具破折を起こさないための配慮です。
治療の器具管理や治療手順を守るちょっとした配慮によって器具の破折は99%以上防ぐことが出来ます。

今回除去出来た破折した治療器具です。
長さは約2.5㎜程ですが、これが残っていることで痛みなどが再発し、他の歯医者さんからは「治療が出来ない」「抜くしかない」と言われてしまうことを考えると、歯の治療もとても繊細な仕事だと思います。
ともあれ、今回はしっかりと取り除くことが出来て良かったですね。

原因を除去した後は、再度根管治療を行います。
治療が終了した後のレントゲン写真です。3本の根管にしっかりと薬が入っているのが分かると思います。


今回の治療は理想的な過程をたどることが出来たので、再治療による歯のダメージもなく、痛みの原因だった不十分な治療と治療器具の破折片も除去することが出来たので、この歯はその寿命を全うすることが出来ると思います。
しかしながら、この歯が何年持つかと言うことがはっきりと断言出来ないと言うことも覚えておいてほしいと思います。


この歯に関して言えば「割れるまで使うことが出来る」と言った答えでしょうか。その為にかぶせるなどの割れ難くする処置を続けて行うことが大切です。
神経を取った歯は少しずつもろくなっていきます。そして、割れてしまって抜歯という運命になることが多いといった事実からも、やはり虫歯・歯周病を予防して神経も守っていくといった考えが大切になります。