子どものむし歯予防

お子さんへのむし歯予防、何をしていますか?
歯みがきとか、甘いものを与えないとか・・・
でも、わかっていてもできないことってありますよね。

子育て中のさまざまな疑問・・・

むし歯になってしまうメカニズムを正しく理解していれば、解決策はたくさんあります!

ポテトチップとアイスクリーム、どっちが歯に悪い?

Q.
ポテトチップスとアイスクリームでは、どちらがむし歯の危険性が高いと思いますか?

アイスクリームのような気がしますが、実は「甘いから歯に悪い食べ物」で、「甘くないから歯に良い食べ物」ではないのです。
むし歯菌は甘い物が大好物。それは間違いありません。甘い物に含まれている砂糖の主成分である「ショ糖」が、むし歯の原因になる「酸」を一番つくりやすいのです。
ではショ糖をとらなければ、むし歯にはならないのでしょうか。
実は私たちのエネルギー源であるブドウ糖や、果実に含まれる果糖など、ほかの糖類でも酸はつくられます。また、ほとんどの料理や食品には、多少なりとも糖が含まれています。
つまり、甘い物をとらなくても、毎回の食事のたびに酸はつくられているのです。
食べ物が口の中に入ると、2~3分でプラーク(=歯の表面のネバネバした汚れ)が酸性に傾いて、歯の表面を溶かし始めます。これが「脱灰」です。
その後、唾液の力で約20~40分かけて歯の表面を元どおりに治していきます。これが「再石灰化」です。

ここで時間に注目してください。脱灰は2~3分で始まるのに、再石灰化には20~40分もかかります。
つまり、再石灰化で歯の表面が元に戻る前に食べ物が入ってしまうと、また脱灰が始まって、歯の表面はどんどん溶かされていってしまうのです。

そのため、アイスクリームのように、糖分は多いけれど流れやすくて歯に残らない物より、ポテトチップスのように、甘くはないけれど長時間、口の中に残ってしまう物の方が、むし歯の危険性が高いこともあります。
最も危険なのは、甘くて口の中に残りやすい食べ物です。

例:キャラメルや、クッキー、あんこなど。

それから、酸性で歯を溶かす恐れのある飲食物も危険です。
野菜ジュースや乳酸飲料も酸性なので、お子さんに与える時は注意しましょう。長時間かけて、ちびちび飲むことや、飲んですぐ寝かせてしまわないように注意してください。
ポイントは「脱灰」と「再石灰化」の時間が、トータルで、どちらがどのくらい長いか、なのです。
間食をすること、飴、ジュース、砂糖の入ったコーヒー、酸性の飲食物などを、ひんぱんに口に入れてしまうことが問題で、その時すでに歯は溶け始めています。
むし歯予防においては、歯を溶かさないようにすること、つまり「再石灰化」がスムーズに行えるように、食事のとり方を正しくすることが、とても重要になります。

結論としては、「何を食べるか」よりも「何回食べるか」、そして「いつ歯をみがくか」、口の中に食べ物や甘い飲み物が入っている「時間」が問題なのです。

むし歯になりやすい人となりにくい人がいるのはなぜ?

みなさんの周りには、今まで一度も、むし歯になったことがない、という人はいませんか?
実は、むし歯のなりやすさは人によって違うのです。それは生まれつき遺伝で決まっているわけではありません。
どのようなことに気をつけていれば、子どもを虫歯になりにくい子にすることができるのでしょうか。

ミュータンス菌は、むし歯の一番の原因菌で、むし歯菌の中でもボス的な存在。実はこのミュータンス菌が、むし歯のきっかけをつくっているのです。
ミュータンス菌は感染する菌で、日本人のほとんどが感染しています。ここで注目してほしいのは、ミュータンス菌の数は人それぞれ違うということ。
口の中にミュータンス菌がほとんどない人もいれば、100万以上の菌を持っている人もいます。数が多ければ多いほど、むし歯になりやすいのは間違いありません。
まず、生まれたばかりの赤ちゃんの口の中には、ミュータンス菌はいません。歯が生えそろうまでの期間に、保育者(親など)がどのように子どもに接するかで、ミュータンス菌の数が決まってきます。

例えば、ミュータンス菌を持っているお母さんやお父さんが使ったお箸やスプーンなどを、そのまま子どもの口の中に入れてしまうと、それで菌がうつり、広がっていきます。
つまり、むし歯は感染症なのです。
一度口をつけたものを、そのまま使えないとなると、とても気をつかわなくてはならないと思ってしまうかもしれませんが、それほど神経質にならなくても大丈夫です。
少しの菌が、たまに入ってくるくらいでは、そのまま口の中にすみつくことはなく、出て行ってしまいます。
では、どうなると菌がすみついてしまうのでしょうか。
ここでポイントとなるのが、「食習慣」です。
糖が口の中に入ると、それをエネルギーにミュータンス菌がどんどん繁殖して、一時的に菌の量が多くなってしまいます。すると、体が菌を追い出すことができなくなって、だんだんすみついてしまうのです。

つまり、

「ミュータンス菌との接触」+「糖の多い食習慣」=「ミュータンス菌の感染・定着」
 ➡むし歯になりやすい子ども

となるのです。これは、菌そのものは遺伝しないけれども、同じ環境で生活する家族が、同じような口の中になっていく可能性はあるということです。
「歯が悪いのは遺伝なのかな?」と思われがちな理由もわかりますね。
このようなことを理解しないまま子育てをすると、知らず知らずに自分(親)と同じような口内環境を、子どもにつくってしまうことになります。
例えば、もともと多量のミュータンス菌を持っているお母さんが、しかも甘い物を食べても歯みがきをしないでいると、口の中はさらに菌でいっぱいになります。
そのお母さんの口に入れたスプーンで、お子さんに食事を与えてしまうと、たくさんの菌が子どもの口の中へ入っていってしまいます。
そのため、口の中がキレイなお母さんの子どもと比べると、ミュータンス菌の感染率が、ぐっと高くなってしまうのです。
まず大切なのは、自分自身がどのくらいミュータンス菌を持っているのかを、知っておくこと。その結果、たくさん持っているとしたら、まずは自分のお口のケアをしっかり行うことです。
一緒に生活する以上、どうしても菌は子どもの口の中に入ってしまいます。お子さんへうつさないよう神経質になるよりも、自分の菌をなるべく抑えることが、子どもに感染させないポイントになるのです。
結果として、それが口内環境を整えるきっかけとなり、お子さんだけでなく自分のためにもなることでしょう。
これから親になる方はもちろん、今ある歯をこれからも大切にしていきたい方は、一度歯科医院でミュータンス菌の数を調べてみてはいかがでしょうか。

人の体はむし歯にならないようにできていた!

もともと人間の体には、むし歯菌が出す「酸」と闘おうとする抵抗力があります。唾液や歯の質などが、その力となりますが、これも人によって差があります。
例えば、ミュータンス菌をたくさん持っていて、歯みがきも上手ではないのに、むし歯にならない人もいます。それは、この体の抵抗力に秘密があります。

◆唾液の4つの働き
 洗浄作用……歯の表面の食べかすを洗い流してくれる。
 抗菌作用……プラークをつきにくくする。
 緩衝作用……酸を中和する。
 抗脱灰作用……酸によって歯が溶ける働きを低下させ、再石灰化を促進する。

唾液はこのような優れた働きをしてくれるので、唾液がたくさん出る人ほど、むし歯にはなりにくい、ということになります。
この「たくさん出る」というのは、具体的にどれくらいの量が理想的なのでしょうか。
ちなみに、唾液は何もせずにリラックスした状態では、あまり出てきません。
唾液が一番活躍できる時、それは食事する時です。
食事が始まると、食べ物を噛むことで脳に合図が行き、「出番だ!」とたくさんの唾液が出てきます。この時に出る唾液を「刺激唾液」といいます。
この唾液の量が、5分間に10ミリリットル以上出るのが理想的ですが、少ないと1ミリリットルほどしか出ない人もいます。
唾液の量は年齢と共に減少することが多いため、高齢になってから一気に、むし歯が増えてしまうことがあります。またストレスや体調によって唾液が少なくなったり、ほとんどの薬は副作用で唾液が減少してしまいます。
このような唾液の量の変化によって、いきなりむし歯ができることも少なくありません。
それくらい、唾液は普段から、むし歯と闘ってくれているのです。唾液に勝ち続けてもらうために私たちにできるのは、「よく噛むこと」です。
ですので、たくさん噛んで、唾液を応援してあげましょう。

もう1つ、唾液の量だけでなく「質」も大切です。では、唾液の質とは、何を指すのでしょうか。
それは「緩衝能」という、酸を中和する力のことです。
唾液の働きの結果に「再石灰化」がありますが、それは酸性に傾いた口の中を中性に戻すことで、歯の表面を元に戻してくれるという働きのこと。ちなみに唾液は、水の1000~10万倍も中性に戻す力が強いのです。
1000~10万倍――。幅がありますね。つまり、これも個人差があるということです。緩衝能が高いと、口の中をより早く中性に戻してくれます。
ということは、再石灰化しやすく、むし歯にはなりにくいのです。弱い唾液を強い唾液にする方法はありませんが、唾液の量が多い人は、質も良い傾向にあります。
唾液を出しやすくするには、たくさん噛むことのほかに、何も口に入っていない状態で、舌を使って、歯や口の中をみがくのが効果的です。口の中にある、唾液の出る所を刺激してあげることや、舌を動かすことで、唾液が出てくるようになります。
ちなみに、みがき残しをチェックする染め出し液を使って、上と下の前歯を比べてみると、ほとんどの人が圧倒的に下の前歯の方がみがけていません。しかし、おじいさん、おばあさんになったときに最後まで残るのは下の前歯なのです。つまり、歯みがきよりも、唾液の力の方が、むし歯予防に効果的なのです。
そして、唾液の恩恵を受けやすいかどうかで、同じ口の中でも、むし歯になりやすいところ・なりにくいところがある、ということです。
それがわかっていれば、むし歯になりやすいところを重点的に磨くことができますよね。

個人差で見ると、唾液だけをとっても、むし歯に対する抵抗力が強い人もいれば、弱い人もいます。またミュータンス菌にも個人差があり、多い人も少ない人もいます。
もしも検査で「ミュータンス菌が多くて、むし歯に対する抵抗力が弱い」という結果が出て、自分はむし歯になりやすいのだとわかっていたら……。
意識して、しっかり歯をみがいたり、甘い物をひかえたり、定期的に歯科医院でむし歯のチェックを行うようにしますよね。
これは大人だからできること。

子どもは自分の意思でむし歯予防などできるはずがありません。つまりこの年代は、今お子さんをお持ちの親世代、そしてこれから親になる世代が、何が大切かを知っておくことが、お子さんのお口の健康を大きく左右していきます。
どのようなリスクを持っているのかわかっていれば、足りない部分を補うような、本当の意味での予防をしっかりと行うことができるはず。
予防法は人それぞれ違います。
どこに重点をおけば良いのか、やるのなら効果的に、そして効率よく行っていきたいですよね。

今までお伝えしてきた、むし歯の原因のうち、ミュータンス菌の数と唾液の抵抗力は、歯科医院で調べることができます。その結果に合わせて、食習慣のコントロールと歯みがきを行うことで、むし歯になりやすい人でも、むし歯の発症を防ぐことができます。
本来、人の体は、むし歯にならないようにできているのです。
体が、がんばって闘ってくれているのですから、私たちも自分の体が無理なく闘えるように準備してあげましょう。

最後に……

ほんとうは、誰もがむし歯のない口の中を手に入れることができます。
歯のことで悩まなくていいはずなのです。
子どもの頃の環境は自分では選べません。けれども、お子さんやお孫さん、周りにいる小さな子どもたちに、良い環境をプレゼントすることは今からでもできます。
大変だと思うことでも、それを習慣にすれば当たり前になります。子どもは親の言うことを、なかなか聞いてくれないかもしれません。でも、親の真似はしたがります。子どもに真似してほしい自分になること。そうすれば、「子どものために」が自分のためになります。
自分の歯が健康なら、時間とお金の節約にもなり、その分を周囲の人や社会に還元することもできます。
このような良い流れを、歯に興味のない人や、情報が手に入らず選択さえできない人々に対しても、等しくもたらすことができる。そんな健全な情報化社会になっていくことを願います。