歯周病予防

当院における虫歯と歯周病の予防の取り組みをまとめたのでご覧下さい

みがき残しが細菌のかたまりに

歯周病とは「歯の周りの組織の病気」ということで、虫歯と並んで歯科の二大疾患とされています。
この歯周病は、どのように進行していくのでしょう。まず、ものを食べたり飲んだりすると、歯と歯肉の間の溝(歯肉溝、歯周ポケットと呼ばれる)などに汚れがたまります。
また、歯と歯肉の間の溝は、ブラッシングする際に、みがき残しができやすい場所でもあります。
このみがき残しの中に、唾液中の細菌が入ってきます(唾液の中には雨粒一滴ぐらいの中に10億という数の細菌がいるのが普通)。つまり、このみがき残しの部分は細菌のかたまりになっていくわけです。

歯と歯肉の溝にみがき残しができる。

みがき残しの中に唾液中の細菌が入り込む。

細菌も私たちと同じように生きています。生きているということは、私たちが出す汗や老廃物のように、細菌たちもいろいろな代謝産物を出したりするということです。これが口の中に出ていって、歯肉や歯に触れたりします。この細菌たちの汗であったり、老廃物であったりするものが、歯肉にとっては毒の役割をします。
そうすると歯肉にはどんな変化が生じるのでしょう。そうです、歯肉が腫れて充血・うっ血してくるのです。歯肉は、この毒を洗い流すために、新しい血管をつくって新鮮な血液をたくさん流していきます。しかし大急ぎでつくられた血管は、壊れやすかったり血が出やすかったりするため、よけいにうっ血していきます。これが「歯肉炎」という状態です。

細菌は、酸や毒素など、いろいろな代謝産物を周囲にまきちらす。毒素は歯肉に対して毒の働きをし、口臭の原因にもなる。また酸で歯が溶けて虫歯になる。

細菌の出す毒が歯肉に触れたり侵入したりすることで、歯肉が腫れてふくらみ、血が出やすくなって炎症が生じる。

歯肉炎が悪化し、歯石ができる

歯肉が腫れることで、歯と歯肉の間の溝が深くなったりして、よりみがき残しができやすい状態になります。
そうして、ますます汚れが降り積もった結果、細菌たちが出す毒素の量も増加します。増加した毒素を洗い流すための血液も、さらにたくさん必要になってくるため、よりいっそう腫れてきます。
汚れが重なってくると、その表層には唾液中のカルシウムなどが沈着して硬くなっていきます。これが「歯石」で、この歯石の状態になってしまうと、歯ブラシでみがいてもとれなくなってしまいます。このような状態になる前に対処することが大切なのです。

腫れた歯肉は、ますます汚れがつきやすく、みがき残しができやすい形になっていき、より多くの細菌による毒素が歯肉に影響を与えるようになる。

いつも同じ所にみがき残しがあると、その表面に唾液中のカルシウムなどが沈着して硬くなってしまう(これが歯石)。

こうしたことが何度も繰り返されると、毎日の積み重ねで、最初についた汚れの部分には空気が触れなくなってきます(口腔内は普通、空気に触れている)。そうすると、空気がない所で元気になる細菌(嫌気性細菌という)が増えてきます。この嫌気性細菌が出す汗や老廃物(毒素)は、よりいっそう、歯肉などに対して毒性が強いのです。

みがき残しが何層にも降り積もると、初めについたみがき残しは空気が触れにくい環境になり、より毒性の強い菌(歯周病原菌、嫌気性細菌)が増えてくる。

表面が歯石でガードされているため、ブラッシングしても汚れはとれない。空気が触れにくい深部には、より毒性の強い菌が増える。そのため歯肉に多くの毒素が入り込み、歯と歯肉とのバリアが壊されていく。

歯を支える骨が壊れはじめる

こうなると、歯肉が腫れる(新しいが弱々しい血管をたくさんつくって、新鮮な血流を増やす)だけでは対応できなくなってきて、今度は歯を支える骨が壊れはじめます。
これは自分自身の身体を、必要に迫られて壊していくのです。なぜなら爪や髪の毛と同様に、歯は身体の付属器だからです。
最も大切な脳や心臓などの臓器を守るために、私たちの身体は、骨や筋肉といった骨格で囲まれています。しかし、付属器である歯がなくても、生命活動上には支障がないことを、身体は知っています。ですから、歯があればより機能的だが、なくても平気だと、身体が判断するのです。
歯と歯肉の境目にプラーク(歯垢)がつき、そこから歯肉や骨にまで炎症が生じます。
つまり歯があるために、身体(血液中)に細菌が進入してくるのです。歯がなくなれば、これらの細菌がすみつく場所もなくなることを、身体はわかっています。歯のない部分の歯肉や頬には細菌はつくことができず、飲み込まれて胃液の酸で多くが死滅していきます。そこで、身体から歯を外してしまおうという反応が起こります。
この反応が歯周炎です。つまり、歯周病とは歯を支える骨が壊れることなのです。 歯を支える骨が壊れはじめると、プラークはこの壊れた部分、骨がなくなった部分にまで侵入してきます。これが繰り返されて、歯を支える骨が大きくなくなると、歯はグラグラと動揺してきます。

さらに病状が進行すると、細菌による毒素は、歯肉だけでなく、歯を支える骨や歯根表面にまで悪影響を与える。その結果として、歯を支える骨が壊れていく。

歯周病とは、歯を支える骨を壊す病気である。

毎日の汚れをしっかりとる!

歯肉の中に侵入してきた毒素や細菌は、歯ブラシではとることができません。ですから、歯肉の中に存在する汚れや歯石は、麻酔をかけるなどして専門家である歯科医師や歯科衛生士にとってもらうことが大切です。
一方、歯肉の上の部分についている汚れは、患者さんが毎日みがいてとることが大切で、これは患者さんにしかできないことでもあります。歯周病の予防に最も大切なのは、この最初に降り積もる汚れを、毎日しっかりとみがいて清潔にするということです。なぜなら、骨が壊れた状態になってしまっては、私たち歯科医師や歯科衛生士が歯肉の中の隠れた汚れをとり、歯肉より上の汚れをしっかりとみがいて清潔にしたとしても、壊れた骨を元に戻すことはできないからです。

歯周病の予防・治療には、患者と歯科医療担当者との協力が重要。ブラッシングは患者自身にしかできないし、これに勝る方法はない。

腕の骨折などで折れた所は骨が強くなって治っていきますが、歯周病で壊れた骨は元には戻りません。これは歯周病が、その歯があるせいで身体の中に細菌や毒素が入ってきている、だから身体から歯を外そうとしたもので、自分自身で歯を支える骨を壊しているからです。 つまり、必要に応じて身体が壊したものなので、元には戻らないのです。したがって、歯周病は進行を止めることが第一目標の病気ということになります。だからこそ、骨が壊れる前の初めについた汚れを毎日しっかりときれいにして、歯肉の中まで汚れや歯石がつかないようにしてほしいのです。

汚れがつきやすい所

歯の中には、どうしても汚れがつきやすく、みがき残しが出やすい所があります。

左の図は下の前歯を前から見た所です。このような歯と歯の間は歯ブラシでみがきにくく、虫歯にも歯周病にもなりやすい所です。

左の図は下の前歯を上から見下ろした所です。こうした、みがきにくい歯と歯の間の部分に、どうやって歯ブラシの毛先を入れるかが大事です。ここが虫歯になると表面が粗造になり、汚れがよりつきやすくなって、歯周病を誘発しやすい環境になるからです。

左の図は歯を横から見た所です。歯と歯肉の境目を、毎日しっかりきれいにすることが、歯周病予防につながります。

ブラッシングの大切なポイント

では歯周病を予防するには、どのようなことに気をつけてブラッシングすれば良いのでしょう。以下に詳しく説明していきます。

まず歯ブラシの毛先をしっかり歯に当てて、歯肉が少し白くなるくらいの力加減でみがいていきます。

下の奥歯をみがく時は、口を閉じ気味にすれば歯ブラシが真横に届きます。まずは指で触って確かめてみてください。

ここで大切なのは、歯の曲面を意識することです。曲面に合わせて歯ブラシを動かすイメージを持ちましょう。後ろをみがくときは、後ろに傾けて当てていきます。

歯の側面をみがくときは、歯ブラシをまっすぐに当てていきます。

歯の手前側の側面をみがくときは、歯ブラシも手前に傾けて振動させるようにみがいていきます。

1本みがきおえたら、1つ手前の歯に歯ブラシを移して、同じ動作を繰り返します。

下の奥歯の舌側へ歯ブラシを当てるときは、歯ブラシを立てて使うのがポイントです。奥・横・手前と、歯の曲面に沿って当てていくのは今までと同じです。

最もみがき残しが多い奥歯の裏側は、歯の手前の曲面まで、しっかり歯ブラシの毛先を入れるようにイメージしましょう。まずは指で自分自身の歯を触ってみましょう。

歯の裏側をみがくときは、なるべく歯ブラシを立てましょう。

歯の1番後ろや頬側をみがくときは、なるべく口を閉じて頬を柔らかくします。

歯と歯の間は、歯ブラシだけでは完全な掃除はできません。歯ブラシに慣れて余裕ができてきたら、デンタルフロスを使ってみましょう。

下の奥歯のブリッジなどが装着されている所は、特に念入りに歯ブラシを当てましょう。歯間ブラシかワンタフトブラシを使うと、みがきやすいですよ。

特に大切なポイントは、歯と歯肉の境目です。ここにみがき残しがないよう、気をつけてブラッシングしましょう。

歯周病予防のポイント

最後に、歯周病を予防するにはどんなことが重要なのか、もう一度まとめてみましょう。

1.口腔内の細菌の数を減らす(特に歯と歯肉の境目の周囲)
歯を支える周りの組織(歯周組織)には、歯肉・歯根膜・歯槽骨・セメント質(歯根の表面)の4つがあります。
その4つが汚れないように清潔にすることが、歯周病の予防につながります。それには、しっかりブラッシングすることが重要です。デンタルフロスや歯間ブラシも使いましょう。
2.良い噛み合わせを保つ
噛み合わせが悪いと歯周病を進行させやすくなります。歯がなくなっても放っておかないこと、歯がなくなったら、その周囲(隣の歯や本来噛み合う歯)をしっかりみがくこと(噛めなくなった部位は、自浄性が低下して汚れやすくなります)。
3.自分自身では清潔にできない所があることを知る
歯肉の中に隠れている歯根の汚れや歯石は、専門家にとってもらいましょう。
4.細菌は眠っている間に爆発的に増加することを知る
そこで就寝前のブラッシングが重要になります。ブラッシングの後に、洗口剤等で口をゆすぐとより良いでしょう。
5.細菌に糖を与えない
食習慣を確立し、間食をしないことが重要です。

虫歯と歯周病の予防に注意すれば、歯医者さんに通う頻度はぐっと減るはずです。